街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

2023年の終わりに考えること

まだ今年って何年だったっけ、という感覚すらあるのに、それももう終わるらしい。誰かと一緒に歩いたり一人になったりまた誰かが隣に来てくれたり、何度経験したって毎回変わらず気持ちの浮き沈みを繰り返している。とりあえず、映画になるほど劇的ではない…

猫とダイヤモンド

目の前を横切る猫じゃらしを捕まえた時に、猫は果たして自分が人間に捕まえさせられていることに気づいているのだろうか。僕もそう、途中で気づいたとしてもやめられない。捕まえさせられていたとしても別にいいのだ。そんなことをぶつぶつ呟いていたら「あ…

センチな夏はもう古い

撮りかけだったフィルムを使い切り、現像に出す。別にいつでも良かったのだけれどいつかは区切りをつけないといけないと思っていて、たまたまそのきっかけができただけのこと。愛は永遠だ、なんてよく聞く言葉も嫌いではないけれど、恋は供養する必要がある…

ギターケースの中で眠る

約4ヶ月続いた歯の治療をようやく終えた。ホッとしたのも束の間、鏡に映る金属の歯がダサくてテンションはダダ下がる。健康診断を受けた。問診で持病の悪化を伝えられはしたものの結果はわりとどうでもよくて、採血やら胃カメラやらをしているあたりがピーク…

いつかの後悔とか、うるさいな

何か気分を変えられるようなことをしなければいけないと思い、10年近く使っている財布を新調した。これまでと同じ、お気に入りのブランドのもの。買った翌日から早速使おうと思って中身を移し終えたあたりでこれまで使っていた財布がたまらなく愛おしくなっ…

あたたかな日々を転げ落ちる

祖父が危篤だと早朝に報せが来たのは、夏の終わりが近づいた頃だった。詳しい状況がわかったらまた連絡すると言われて仕事に行く支度を整える。平静を装ってはいたものの混乱していたのだろう。連絡をもらってすぐに向かっていれば間に合ったかもしれないの…

きみの体温がとても柔らかかった

最後の泣き顔を目に焼き付けようと思っのに、視界がぼやけてしまってどうにも難しかった。あの映画のラストみたいに、写真に撮ってしまえば良かったのだろうか。感情の瞬発力が低いのでその場で伝えるべきことをうまく伝えるのが難しい、いつかの後悔が巡る…

言葉より未来を

歳の離れたはとこがこの春から高校生になるのでお祝いを贈った、たいした金額ではないけれど。真面目なあの子がなんの役にも立たなそうなものを買ってくれたら嬉しい。で、無駄遣いと思ったそれがいつかなにかに繋がったらもっと嬉しい。先日、とある高校の…

2022年の終わりに考えること

ここ何年か現状維持さえできればいいと思って過ごしている。それでもあちこちに転機は落ちているようで、ふとした拍子に踏んづけては悩んだりどうでも良くなったりしている。秋に引っ越しをした。特に前に進みたいと思ったわけでもなかったけれど、留まる理…

夜になってから花は咲く

残業終わりの帰り道で空を見上げたり、カメラを空に向ける人々に遭遇した。宇宙人でも攻めてきたのかしら、と思ってそちらに顔を向けると、赤黒く染まった月が浮かんでいる。そういえばテレビのニュースで言っていたっけな。その時は確かに自分も見たかった…

壊れた指輪も小さな思い出

引っ越しを間近に控え、面倒な手続きと格闘し、ひたすら部屋を片付ける。7年間暮らしている間に溜め込んだ思い出はゴミ袋10個分近くになった。にも拘わらず散らかった部屋。そもそも僕は好きなものに囲まれ埋もれて過ごしたい、断捨離なんてくそくらえな主義…

夏の終わりと夕暮れ空

生来のものぐさな性格のせいで引っ越しを先延ばしにしていたものの、看過しがたい事案が立て続けに起こったことによりついに重い腰を上げた。ときめきのない引越しだとは思いつつ賃貸情報サイトで見つけたおしゃれな物件に一目惚れし、すぐさま内見の申し込…

なのに、ばかみたいに空は青い

夏が終わりに近づいて、例年通り思い入れのあるようなないような曲を聴きながらセンチな気分に浸る。特別夏らしいことはしていないけどひたすら暑かった、でも少し短かったかもしれない。勤務先では尤もらしい理由をつけて希望退職が勧奨され、お世話になっ…

クリームの夢を見た朝に

幹線道路に架かる歩道橋の前で立ち尽くしていた。初めて見るような、懐かしいような景色が目も前に広がっている。約束の時間はとうに過ぎてしまっていて、どう言い訳をしようか考える。職場から電話がきた、荷物が届いたけれど誰もいないから受け取って欲し…

だからさよならは言わない

二回り歳上の友人は声が大きくて酒好きで煙草好きで女好きで、破天荒な人だった。当時平凡な大学生だった僕にとって彼と遊び回る日々はとても刺激的で、講義なんかより多くのことを学べたと思う。僕が大学を辞めた後も相変わらず一緒に飲み歩いたり、引っ越…

ヒイラギ

息子の卒業式に行ってきた。疫病の影響で会えない期間が長かったとはいえ、知らない間にずいぶん大きくなっていた。これからさらに会う機会も減って、彼は僕の知らないところで大人になっていくんだろう。そもそも彼にとってはもはや僕と一緒に暮らしていな…

嘆くには、あまりにも時が

年が明けてすぐ、ドライヤーが爆発した。たまにしか使わない職場のシュレッダーはいつも僕の番で満タンになり、家を出た途端に靴紐はちぎれる。思いがけないタイミングで元妻から再婚の報告を受け、疫病のせいでめっきり会えていなかった息子と会える機会も…

2021年の終わりに考えること

いつも理由を探してきた。それは何かを始めるきっかけだったり、諦める言い訳だったりする。春に亡くなった叔父の形見の一眼レフカメラを受け取ったのが夏の終わり頃、それから修理が終わって新しいレンズを手に入れて、気づけば季節はもう冬で、今年も終わ…

シモツキハズカム

彼女は猫のような人だった。感情と表情がころころ変わり、僕はいつもそれに振り回される。だからなのかは知らないが、猫にも好かれることが多かったと思う。彼女の部屋によく野良猫が遊びに来ていた時期があって、雨で濡れた時にはタオルで拭いてあげたりし…

若者のすべて

夏の終わり、大雨の夜に父が訪ねてきた。彼は大きくてカビ臭いレザーのバッグを抱えていて、中には古い一眼レフカメラが2台。春先に亡くなった叔父の遺品らしい。「他の誰かが持ってても仕方ないから、お前が使えよ」そう言って父は帰って行った。僕がカメラ…

主役になりたかった君へ

週末に映画を観てきたらしい職場の後輩が、主演の俳優が僕にそっくりだったという。そんなことはないと謙遜したものの、今をときめく人気俳優と似ていると言われて悪い気はしない。もっとも彼女は数日前に夢の中で猪から僕に助けられたとかで、好感度フィル…

ウサギとカメ

ベランダの水槽で飼っていた亀がいなくなった。何日探しても見つけられなくて落ち込んでいる彼に、わたしは何も言えなかった。いなくなった次の朝に車に轢かれてしまったことを知っていたのに、言えなかった。わたしがこっそり埋めてしまったから、彼がどれ…

鈴の音が鳴る季節の前に

新校舎の踊り場に、僕は天使を見た。 梅雨晴れの、蒸し暑い日だったと思う。中学に入ったばかりの僕は部活でできた友人に会うために普段はあまり立ち入ることのない新校舎にいた。友人が忘れ物をしたからと、一緒に教室までの階段を登る。そこで彼女に出会っ…

どこの空も夕日は

春の連休前、勝にいちゃんを亡くした。疫病のせいで葬儀に参加させてもらえず、二ヶ月経った今もまだお別れができていない。僕がまだ幼い頃。夜は両親が仕事であまり家にいなかったのだけど、たまに勝にいちゃんが遊びに来てくれるのが楽しみだった。僕もよ…

Picture Perfect

通勤の道すがら、歩道橋を渡る。橋の下には高速道路が通っていて、その先に遠くの高層ビル群が見える。かつてのわたしの居場所はその中にあった。あの頃は毎日に必死でしがみついて余裕が無くて、自分がどこにいるかさえよくわかってなかったのかもしれない…

full empty

疫病が流行しているので不要不急の外出を控えるようにと通達が出された。元々人混みも得意ではなかったし、気乗りしない飲みの誘いもなくなった。新しい生活様式は僕にとって特別苦ではない、はずだった。家に籠る休日が続きすぎて映画を観ても漫画を読んで…

2020年の終わりに考えること

どうやら今年ももう終わるらしい。本当に終わるの、全然実感がない。どうやら本当みたい。1年が過ぎるのが早く感じるようになった。それは5歳なら1/5年、30歳なら今年は1/30年というように時間に対しての分母が大きくなるからだと学生の頃読んだ何かに書いて…

おぼろげメッセージ

最近の携帯電話には連絡先が登録された人の誕生日をお知らせしてくれる、ちょっと便利でかなり煩わしい機能が付いているらしい。寝ぼけ眼をこすりながら表示された懐かしい名前を眺める。君の顔はどんなだっけ。思い出せたのはぼんやりとした笑顔。きっと僕…

ほどほどに愛のない

青年はふとしたきっかけで仲良くなったホームレスのおじさんに、たまに食べ物を届けたりしていた。「もうすぐ1万円貯まるぞ」おじさんは小銭が詰まった瓶を青年に見せて笑う。冬の近づいたある日、いつものようにテントを訪ねてきた青年におじさんが見せたの…

あなたは私の世界の外で

引っ越すことにしたから合鍵を返してほしいと連絡が来て、久しぶりに彼女を訪ねた。僕がこの部屋を出てどのくらいどろう。そのうちこの部屋にも知らない誰かが住むことになるのだろう。知らない人は存在してない人と同じだとしたら、共有してない時間は無い…