街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

ほどほどに愛のない

青年はふとしたきっかけで仲良くなったホームレスのおじさんに、たまに食べ物を届けたりしていた。「もうすぐ1万円貯まるぞ」おじさんは小銭が詰まった瓶を青年に見せて笑う。冬の近づいたある日、いつものようにテントを訪ねてきた青年におじさんが見せたのは金色に鈍く光る懐中時計だった。自慢げに笑う彼を青年は叱る。「なんで毛布を買わなかったの、懐中時計じゃ冬は越せないんだよ!」怒ったおじさんは青年を追い返し、二人が顔を合わせるのはそれが最後になった。冬が深まった頃、青年の元におじさんの訃報が届く。「おじさんは寒いテントの中で一人、懐中時計の音を聴きながら何を思っていたんだろう」窓の外の雪を眺めて青年は考えていた。

たぶん幼少期に見たドラマか何かのエピソード。不要不急なんて言われるようになったからか人恋しい季節になったからか、ふと記憶に蘇った。不要不急、無駄なもの、それを愛せる素敵な人を僕は愛したい。