街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

だからさよならは言わない

二回り歳上の友人は声が大きくて酒好きで煙草好きで女好きで、破天荒な人だった。
当時平凡な大学生だった僕にとって彼と遊び回る日々はとても刺激的で、講義なんかより多くのことを学べたと思う。
僕が大学を辞めた後も相変わらず一緒に飲み歩いたり、引っ越しを手伝ってもらったり仕事先まで紹介してもらったり世話になっていた。それでも時の流れとともによく集まっていたメンバーも結婚したり仕事が忙しくなったり遠くへ引っ越したりと頻度は減って、世界的に疫病が流行ったあたりでほぼ途絶える。
飲み仲間を介して久しぶりに連絡が来たのは昨夏のこと。体を壊して入院してるけど秋には手術が終わって退院するからその頃久しぶりにみんなで集まろう、と。結局疫病の第何波だかがきて実現しないまま、彼の訃報が届いた。今朝のこと。ご家族の意向で葬儀は行わないらしく、なんの実感もわかないままただただ悲しい。
だけどしんみりするのは底抜けに明るかった彼には似合わないし、いつかあの世の飲み屋で会えそうな気がするよ。だからさよならは言わない。