街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

若者のすべて

夏の終わり、大雨の夜に父が訪ねてきた。彼は大きくてカビ臭いレザーのバッグを抱えていて、中には古い一眼レフカメラが2台。春先に亡くなった叔父の遺品らしい。
「他の誰かが持ってても仕方ないから、お前が使えよ」そう言って父は帰って行った。僕がカメラに興味を持つきっかけを作ったのは叔父なのに、そんな本格的に写真を撮っていたなんて知らなかった。思えば叔父にはかなりかわいがってもらったのに、僕は叔父がどう生きていたのかあまり知らない。父はそういう話をするタイプの人ではないからこれからも知らないままなんだろう、僕からもなんだか聞きづらい。
特別にドラマチックな展開を求めてはいないけれどそろそろ活動再開のため何かしら動き始めたいと思っていたし、いいタイミングだったのかもしれない。そんな風に考えながら、カメラをオーバーホールに出した。