街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

2021-01-01から1年間の記事一覧

2021年の終わりに考えること

いつも理由を探してきた。それは何かを始めるきっかけだったり、諦める言い訳だったりする。春に亡くなった叔父の形見の一眼レフカメラを受け取ったのが夏の終わり頃、それから修理が終わって新しいレンズを手に入れて、気づけば季節はもう冬で、今年も終わ…

シモツキハズカム

彼女は猫のような人だった。感情と表情がころころ変わり、僕はいつもそれに振り回される。だからなのかは知らないが、猫にも好かれることが多かったと思う。彼女の部屋によく野良猫が遊びに来ていた時期があって、雨で濡れた時にはタオルで拭いてあげたりし…

若者のすべて

夏の終わり、大雨の夜に父が訪ねてきた。彼は大きくてカビ臭いレザーのバッグを抱えていて、中には古い一眼レフカメラが2台。春先に亡くなった叔父の遺品らしい。「他の誰かが持ってても仕方ないから、お前が使えよ」そう言って父は帰って行った。僕がカメラ…

主役になりたかった君へ

週末に映画を観てきたらしい職場の後輩が、主演の俳優が僕にそっくりだったという。そんなことはないと謙遜したものの、今をときめく人気俳優と似ていると言われて悪い気はしない。もっとも彼女は数日前に夢の中で猪から僕に助けられたとかで、好感度フィル…

ウサギとカメ

ベランダの水槽で飼っていた亀がいなくなった。何日探しても見つけられなくて落ち込んでいる彼に、わたしは何も言えなかった。いなくなった次の朝に車に轢かれてしまったことを知っていたのに、言えなかった。わたしがこっそり埋めてしまったから、彼がどれ…

鈴の音が鳴る季節の前に

新校舎の踊り場に、僕は天使を見た。 梅雨晴れの、蒸し暑い日だったと思う。中学に入ったばかりの僕は部活でできた友人に会うために普段はあまり立ち入ることのない新校舎にいた。友人が忘れ物をしたからと、一緒に教室までの階段を登る。そこで彼女に出会っ…

どこの空も夕日は

春の連休前、勝にいちゃんを亡くした。疫病のせいで葬儀に参加させてもらえず、二ヶ月経った今もまだお別れができていない。僕がまだ幼い頃。夜は両親が仕事であまり家にいなかったのだけど、たまに勝にいちゃんが遊びに来てくれるのが楽しみだった。僕もよ…

Picture Perfect

通勤の道すがら、歩道橋を渡る。橋の下には高速道路が通っていて、その先に遠くの高層ビル群が見える。かつてのわたしの居場所はその中にあった。あの頃は毎日に必死でしがみついて余裕が無くて、自分がどこにいるかさえよくわかってなかったのかもしれない…

full empty

疫病が流行しているので不要不急の外出を控えるようにと通達が出された。元々人混みも得意ではなかったし、気乗りしない飲みの誘いもなくなった。新しい生活様式は僕にとって特別苦ではない、はずだった。家に籠る休日が続きすぎて映画を観ても漫画を読んで…