街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

2020-01-01から1年間の記事一覧

2020年の終わりに考えること

どうやら今年ももう終わるらしい。本当に終わるの、全然実感がない。どうやら本当みたい。1年が過ぎるのが早く感じるようになった。それは5歳なら1/5年、30歳なら今年は1/30年というように時間に対しての分母が大きくなるからだと学生の頃読んだ何かに書いて…

おぼろげメッセージ

最近の携帯電話には連絡先が登録された人の誕生日をお知らせしてくれる、ちょっと便利でかなり煩わしい機能が付いているらしい。寝ぼけ眼をこすりながら表示された懐かしい名前を眺める。君の顔はどんなだっけ。思い出せたのはぼんやりとした笑顔。きっと僕…

ほどほどに愛のない

青年はふとしたきっかけで仲良くなったホームレスのおじさんに、たまに食べ物を届けたりしていた。「もうすぐ1万円貯まるぞ」おじさんは小銭が詰まった瓶を青年に見せて笑う。冬の近づいたある日、いつものようにテントを訪ねてきた青年におじさんが見せたの…

あなたは私の世界の外で

引っ越すことにしたから合鍵を返してほしいと連絡が来て、久しぶりに彼女を訪ねた。僕がこの部屋を出てどのくらいどろう。そのうちこの部屋にも知らない誰かが住むことになるのだろう。知らない人は存在してない人と同じだとしたら、共有してない時間は無い…

この世界はワンダーランドじゃない

ライブハウスと古着屋が併設されている夢のような場所。そこで店番をしたり知らないバンドの演奏で踊りながらお酒を飲む夢のような時間。結局全部夢だったけど、疫病が流行る前はいつか正夢になると思っていた。旧友の個展に顔を出した。数年ぶりに会う彼自…

憂鬱な季節を泳ぐ

雨の日が続いている。駅に入った彼女は、閉じた傘を先の方から丸めた。かと思いきや濡れた手を無造作にスカートで拭う。丁寧なのかがさつなのかわからないそのアンバランスな行動を、なぜか愛おしく思った。まとわりつく湿気のせいで曇った眼鏡越しに彼女の…

青い惑星の香り

「好きな香りを思い出すといいでしょう」占いなんて気にしたりしなかったりその時々で都合のいいように受け取っているのだけれど、久しぶりにお気に入りの香水をつけて街に出た。何度か入ったことのある喫茶店や雑貨屋を通り過ぎた。どこの街に行っても誰か…

デンジャラス・スモーキー

様々なスポーツから将来有望な中学生が集められて特別な訓練をするという。どういう経緯かはわからないけれど、僕は卓球界の代表として参加していた。会場となった中学校の格技場裏で何人かの参加者とこっそり喫煙していたのが問題になり訓練を外されそうに…

Transmission

イアンみたいな最期もいいと思った、破滅的なものに情緒を感じてしまう。でもそれは自分が持っていないものへの憧憬であって、僕が同じことをやったとしてもきっと誰も気づかない、ただ忘れ去られるのみ。あくまで彼だったからこそ、その破滅が伝説になった…

ロックンロール・ガール

かつての恋人はギターを弾いていた。同じバンドが好きだったのをきっかけに知り合って、少しだけ一緒にバンドを組んだりもしてた。すぐ解散しちゃったけど。バンドばかりで構ってくれないのが嫌で、彼の曲をちゃんと聴いていなかったたのを思い出す。そんな…

どこかの国の守り神

年明け、初詣に行った帰りに立ち寄ったエスニック系の雑貨店。店内を見ているとなんだか得体の知れないものと目が合う。やたらと目力の強いそいつは、よく見ると木彫りのペンダントだった。どうしてなのか今それを買わなければいけないと思った。思わされた…

Bedtime Story

昔々、あるところに1枚の写真がありました。そこには産まれたばかりの息子を抱く妻とその夫、かつての幸せな家族が写っています。だけどもうその家族は存在していません。彼女は思い出を丸めて捨て、彼はそれをゴミ箱から拾いました。そして彼は家族と過ごし…

見覚えのある感情

仕事帰り、春っぽい白のジャケットを買ってしまった。年々春が短くなっている気がするし、今春においては疫病で出かけることすらままならなくなっている。果たして何回くらい着れる機会があるのだろう。ジャケットをしまったバッグを抱えて乗り込んだ電車の…

ウクレレでも買おうかしら

最近の楽しかった出来事について書こうと思っていたけれど、ニュースで件の客船についての特集を観ていたらそれができなくなってしまった。僕が普段通りの週末を過ごしたり隣のおじさんが訪ねてくる夢をみたりしている間に苦しい日々を送っている人たちがい…

ゆるやかな終末

このところの騒動による自粛ムードと物資の買い占め、どことなく世の中に漂う閉塞感。なんだかあの時と似ているように感じて気分が悪い。歯医者さんへの通院を終えて歩いていると自宅近くに数件あるドラッグストアにはどこも人集りができていた。その光景が…

音楽が鳴り止むまでは踊り続ける

中座した人を待ちながら煙草に火をつける。店の有線から流れる懐かしい曲。隣のテーブルから聞こえてくる、たまたま居合わせた誰かの昔話。アルコールの回ってきた頭を過去が通り抜けていく。いつもより酔いが早い、自分が病み上がりだったことを思い出す。…

猫の日、忍者の日、

数年前の初夏のこと。母方の祖父が入院していると聞いて姉と二人で新幹線に乗り、お見舞いに行った。先に病院に着いていた母と叔父が迎えてくれる。「大きくなったね!」にこやかに叔父が言う。叔父と前にあったのは小学生くらいの頃だったはずだから確かに…

よくある感傷ごっこ

茶碗を洗っていると軋んだような音がした。よく見ると薄っすらとたくさんのヒビが入っている。落とした記憶もないしさほど長く使っていたわけでもないけど安物だから仕方ないのかな。イヤホンの片側から音が出ない。どうやら断線してしまったらしい。物が壊…

かさぶたメッセージ

都内某所のプラネタリウムで解説をしていた女性の声がとても好きで行くたびに癒されていたのだけど久しぶりに行ったら別の方になっていた。さみしい。 呼び鈴が鳴る。宗教の勧誘や訪問販売が多いのでそっとドアスコープを覗くと父が立っていた。ノーアポで訪…

ゆれる木曜日の八方美人

「人に嫌われるのが苦手、誰からもよく思われていたい」そう彼女は言った。仕事で誰かの人生の終わりに立ち会う機会が多いのだそうで、身寄りのない人や親族と疎遠な人と接しているうちにそう思うようになったらしい。自分の人生が残り少なくなった時はたく…

ハチジロウのこと

不眠が祟って仕事中に居眠りをしてしまった。そして僕は八次郎という猫の夢を見る。その話を気に入った彼女はそれからハチジロウと名乗るようになった。もちろん彼女にもちゃんと名前があるのだけど、その名前で呼んでももう答えてもくれない。 ハチジロウは…