街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

鈴の音が鳴る季節の前に

新校舎の踊り場に、僕は天使を見た。

梅雨晴れの、蒸し暑い日だったと思う。中学に入ったばかりの僕は部活でできた友人に会うために普段はあまり立ち入ることのない新校舎にいた。友人が忘れ物をしたからと、一緒に教室までの階段を登る。そこで彼女に出会った、今思えばあれが初めての一目惚れだったんだと思う。当時は一目惚れしたことにすら気づいていなかっただろうけれど、なかなかに衝撃的な経験だったのは覚えている。その後彼女と特に親しくなることはなかったからこれといって思い出は持ち合わせていないのだけど、あの頃は友人たちと帰り道に公園とかであの子がかわいいとか誰が好きだとか、そういう話で盛り上がることが恋愛そのものよりも楽しかった気がする。
今も親交のある数少ない当時の友人から中学時代の友人たちの近況を聞いて、誰が結婚したとか誰が亡くなったとか、その中に彼女の名前もあったので思い出してみた。記憶の中の彼女の顔は消えかけてぼんやりしている、階段の窓から差し込んだ光が美しく照らしていたのだけはよく覚えている。