街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

憂鬱な季節を泳ぐ

雨の日が続いている。駅に入った彼女は、閉じた傘を先の方から丸めた。かと思いきや濡れた手を無造作にスカートで拭う。丁寧なのかがさつなのかわからないそのアンバランスな行動を、なぜか愛おしく思った。まとわりつく湿気のせいで曇った眼鏡越しに彼女の乗った電車を見送る。窓に映った僕の髪はうねっていた。雨は嫌いだ。僕にとって美しいのは記憶と映像の中の雨だけ。