街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

ゆれる木曜日の八方美人

「人に嫌われるのが苦手、誰からもよく思われていたい」そう彼女は言った。仕事で誰かの人生の終わりに立ち会う機会が多いのだそうで、身寄りのない人や親族と疎遠な人と接しているうちにそう思うようになったらしい。自分の人生が残り少なくなった時はたくさんの好きな人たちに囲まれていたい、と。
自分が嫌っている相手からさえも好かれていたい、そう思っていた時期が僕にもあった。ただ僕はもうそんな生き方に疲れてしまって、今ではできる限り他人に興味を持たれないように努めている。どこかの悪役ではないけれど、静かに暮らしたい。
彼女が勤めていた病院を辞めたことを人づてに聞いた。その後どうしてるかはわからないけど、とくに心配はしていない。きっと彼女は望んだ賑やかな最期を迎えられるだろうから。