街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

青い惑星の香り

「好きな香りを思い出すといいでしょう」
占いなんて気にしたりしなかったりその時々で都合のいいように受け取っているのだけれど、久しぶりにお気に入りの香水をつけて街に出た。
何度か入ったことのある喫茶店や雑貨屋を通り過ぎた。どこの街に行っても誰かとの思い出が乱立している。今度来た時に入ってみよう、そう話していた洋食屋はチェーンの居酒屋になっていた。僕の思い出未満はそもそも存在していなかったかのように塗りつぶされて、別の誰かの思い出に上書きされていくのだろう。
昔大切な人に選んでもらった香水は今はもう廃盤になっていて、最後の1本を大切に使っている。少しずつ、確実に減っていく思い出。この瓶が空になる頃には、新しい素敵なものが見つかっているといい。