街角にて

どこかの街の、誰かの物語。

端っこの彼女

海沿いの街に住んでいた彼女は穏やかな微笑みを絶やさない。それはきっと、人付き合いが苦手な彼女なりの処世術でもあったのだろう。

彼女が「お寺で手を合わせていると心が落ち着く」と言いうので二人でたまに寺院にでかけたりした。
話は逸れるが、目の前で船が沈没した時にお釈迦様は誰から助けるか、という話を聞いたことがある。答えは子供でも老人でも信仰深い仏教徒からでもなく、近くの手の届くところにいる人からだそうだ。
彼女は仏教徒ではなかった。それでも誰にでも平等なその空間に安らぎを見出していたのかもしれない。

彼女はもう僕の隣にはいないけれど、今も首都圏の端っこで海を眺めながら穏やかに暮らしてくれていたらいい。